3行でいうと
- 2025年の売上高は$187億(前年比+33%)。ただし営業損失は$26億、純損失は$49億。稼いでいるのはStarlink、赤字の主因はAI部門。
- 長期の価値を分ける最大の前提は「Starshipを完全再使用で運用できるか」。目論見書もこれを最大のリスクとして書いている。
- 長期投資家が見るのは日々の株価ではなく、会社自身が時期つきで示した目標が実現していくか。この記事では6つに整理した。
1. 何をしている会社か
目論見書によれば、SpaceXは宇宙・通信・AIの3つを、垂直統合(部品から運用まで自社で持つ)で手がける会社です。2026年2月にxAIを取得し、AIが第3の柱になりました。過去の数字は、取得後の形に合わせて合算し直されています。
| セグメント | 中身 | 2025年の売上 | 2025年の営業損益 |
|---|
| Space(宇宙) | Falcon・Dragon・Starship(打上げ170回/年) | $4,086M | $(657)M |
| Connectivity(通信) | Starlink(契約者 約1,030万、2026年3月末) | $11,387M | $4,423M |
| AI | xAI・Grok・X(2026年2月に買収) | $3,201M | $(6,355)M |
出典:目論見書(Form 424B4)Summary Historical Consolidated Financial and Operating Data。M=百万ドル。
売上高と営業利益(損失)の推移
上:売上高、下:営業利益(損失)。単位は十億ドル。出典:目論見書。
2. 数字から見えること
| 2023年 | 2024年 | 2025年 | 2026年1〜3月 |
|---|
| 売上高 | $10,387M | $14,015M | $18,674M | $4,694M |
| 営業利益(損失) | $(3,505)M | $466M | $(2,589)M | $(1,943)M |
| 純利益(損失) | $(4,628)M | $791M | $(4,937)M | $(4,276)M |
| 設備投資 | $4,415M | $11,163M | $20,737M | $10,107M |
出典:同上。設備投資は3セグメントの合計。
2025年の営業利益(損失)の内訳 — 稼ぐ部門と、赤字の部門
単位:百万ドル。出典:目論見書(セグメント別営業損益)。通信の黒字(+44億ドル)を、AIの赤字(△64億ドル)が飲み込んでいる。
損益計算書をウォーターフォールグラフで(2025年)
単位:百万ドル。「営業外・税など」は、純損失と営業損失の差額(筆者計算)。出典:目論見書。
稼ぐ現金と、使う現金 — 営業キャッシュフローと設備投資
単位:十億ドル。出典:目論見書。2025年は、設備投資が営業CFの約3倍。差額は外部資金(今回のIPOなど)で埋める構図。
Starlink 契約者数と、1人あたり月額
下段の$はARPU(契約者1人あたり月額収入)
契約者数は百万。出典:目論見書。契約者は4倍強に増えたが、1人あたり月額は3分の2に低下。
貸借対照表(2026年3月末)— 何を持ち、どう調達しているか
単位:百万ドル。優先株=償還可能転換優先株(上場により普通株へ転換)。出典:目論見書。資産の半分超が有形固定資産(ロケット・衛星・データセンター)。
- 売上は伸びているが、利益は赤字に転じた。2024年は営業黒字($4.7億)でしたが、2025年は営業赤字($25.9億)。内訳は、Space $(6.6)億、Connectivity +$44.2億、AI $(63.6)億。AI部門の損失拡大が全体を赤字にした形です。
- 設備投資が営業キャッシュフローを大きく上回る。2025年は設備投資$207億に対し、営業キャッシュフローは$68億。このうちAI向けが$127億を占めます。不足分は外部からの資金調達で埋める構図で、今回のIPO(公開価格$135、約5.56億株)もその一部と読めます。
- Starlinkは契約者が倍増する一方、1人あたり月額は下がっている。契約者は2023年末の230万から2026年3月末に1,030万へ。月額(ARPU)は$99→$91→$81→$66。会社は、価格の低い国際市場の比率が上がったことを理由に挙げています。契約者数だけでなく、1人あたり収益も追う必要があります。
- Starshipへの投資は大きい。累計で$150億超。2025年のSpace部門の研究開発費$30億はStarship向けです。
3. 10年後に価値を決める条件(マイルストーン)
赤字そのものは、成長投資の結果としてありえます。長期で見るときの問いは「赤字を払ってまで進めている計画が、時期どおりに実現しているか」です。目論見書が自ら示した目標を、確認の目印にします。
マイルストーンを時間軸で見る
会社が目論見書で示した予定。番号は表のマイルストーンに対応(★は表外)。時期は目標であり、保証ではありません。出典:目論見書。
| 確認すること | 会社が開示している目標・時期 | 見る指標 | 外れた場合 |
|---|
| ① Starship が軌道へ荷物を運び始める | 2026年下期に軌道への搭載物の投入を開始する予定(目論見書) | 飛行試験の結果、FAAの承認、実際の顧客ペイロード | 次世代衛星の展開と、その先の計画が後ろ倒しになる |
| ② 完全再使用と、航空機並みの高頻度運用 | 「完全かつ迅速な再使用」を目指す。ブースターの回収には成功済み | 再使用の回数、打上げの間隔、1回あたりの費用 | 打上げ単価が下がらず、成長戦略の前提が崩れる。目論見書自身が「大規模な軌道上AI計算衛星は、完全再使用がないと経済的に成り立たない」と記載 |
| ③ Starlink V3 衛星の展開 | 2026年下期からStarshipで展開。1機あたり下り1Tbps、1回の打上げで最大60機 | 展開数、契約者数、1人あたり月額(ARPU) | 成長が現行世代(V2)の容量に縛られる |
| ④ 軌道上での推進剤補給 | 月・火星計画の前提として必要(目論見書) | 補給実証の成否と時期 | 月面・惑星探査の計画が成立しにくくなる |
| ⑤ 軌道上AI計算衛星 | 早ければ2028年に展開開始 | 初号機の打上げ、AI部門の稼働規模(2026年1〜3月で約1GW) | AI向けの巨額投資に見合う収益化が遅れる |
| ⑥ AI部門の赤字縮小 | —(具体的な黒字化時期は示されていない) | AI部門の営業損益、設備投資と売上の比率 | 全社の赤字と資金需要が長引く |
出典:目論見書 Prospectus Summary/Risk Factors/MD&A。表は筆者が整理。
特に①と②が土台です。目論見書は、Starshipの開発・量産・再使用が遅れれば「成長戦略が制約される」と明記し、過去の飛行試験の一部で、FAAが事故(mishap)と判定し、会社主導の調査が行われたと書いています。①②が進めば③〜⑤が連鎖して動き、遅れれば全体が後ろにずれる、という構造です。
4. 気をつけたいこと
- 議決権が創業者に集中している。Class B株は1株10票。上場後、イーロン・マスク氏の議決権は約82.4%。取締役会の過半数も選べるため、会社の方針は事実上この1人で決まります(Nasdaqの「支配会社」)。
- 赤字が続く可能性を、会社自身が認めている。目論見書のリスク要因に「純損失の履歴があり、黒字化できない可能性がある」と記載があります。
- 規制と事故のリスク。打上げ・再突入にはFAAの許可が必要で、許可が下りない、または遅れるリスクがあります。
- 将来の売却圧力。ロックアップ(一定期間の売却制限)の期限が来ると、既存株主の株式が市場に出る可能性があります。
5. 上場後の株価の動き
上場からまだ数か月ですが、値動きの大きさは見て取れます。
上場後の株価の推移(終値、米ドル)
出典:株価データ(日次終値、2026/10/12時点)。上場後の安値は $108.27、高値は $211.39。上場後わずか数か月で、最大2倍近く動いている点に注意。
株価は日々、期待や需給で大きく動きます。マイルストーン型の銘柄では、予定の進み具合のニュースで、短期間に株価が大きく上下するのが普通です。値動きの大きさ自体が、長期の積立で持つときの「付き合い方」の前提になります。
6. 長期で積み立てる人にとって
個別の売買の判断は、この記事では示しません。ひとつだけ言えるのは、こうしたマイルストーン型の銘柄は、予定が1年ずれるだけで評価が大きく変わりうるということです。投資するなら、資産全体のごく一部にとどめて、年に1〜2回、上の6項目を点検する。それ以外の日々の値動きに、神経を使いすぎない。そのくらいの距離感が、長期投資とは相性が良いと考えます。
7. 次に確認する時期
- 次の四半期報告書(10-Q):数字の更新(売上、営業損益、設備投資、Starlink契約者数)。
- 2026年下期:Starshipの飛行試験と、軌道への搭載物投入の開始(①)、V3衛星の展開(③)。
- 2027年:V2 Mobile衛星の展開予定。2028年:軌道上AI計算衛星の展開予定(⑤)。
気になる銘柄は、ウォッチリストで見守る
保有前の銘柄も、価格と値動きをリストで一覧。気になる銘柄を、みんなでFIREのウォッチリストに入れておけます。
出典
更新履歴
- 2026年10月13日 初版(2026年6月12日付の目論見書に基づく)