3行でいうと
- 大手5社は、2026年3月期に全社が増益(営業利益 +6.6%〜+18.6%)。ところが株価は、2026年2〜3月の高値から2〜4割下落(1年では+6%〜△10%)。日経平均(1年で+44.7%)には、大きく後れを取っている。
- 理由の中心は金利。政策金利は2024年7月の0.25%から、2026年9月に1.25%まで上昇し、10年国債利回りは3%前後に。一方、世帯数は2030年をピークに減少に向かう。
- 5社でも、稼ぎ方は違う。営業利益率は住友不動産の28.3%から東急の13.4%まで開きがある。長期で見るのは、金利上昇を、賃料と価格に転嫁できるか。
1. 不動産業界は、何で稼ぐのか
ここで見るのは、オフィスビルや商業施設、分譲マンションなどを手がける総合デベロッパーです。稼ぎ方は、大きく3つに分けられます。
- 賃貸:保有するビルや商業施設の賃料。景気に左右されにくく、利益の土台になる。
- 分譲:マンションや戸建ての販売。物件の引き渡しの時期で、利益が大きく振れる。
- その他:管理・仲介、ホテル・リゾート、不動産の投資・運用、海外など。
賃貸の比率が高い会社ほど利益率が高く、安定する傾向があります。5社を比べる前に、「この会社は何で稼いでいるか」を意識すると、決算の読み方が変わります。
| 会社 | 特徴(一般的な位置づけ) |
|---|
| 三井不動産 | 国内最大手のひとつ。オフィス・商業・住宅・ホテルを幅広く手がける |
| 三菱地所 | 丸の内・大手町など都心のオフィスが強み |
| 住友不動産 | オフィスの賃貸を主力とし、新築マンションも手がける |
| 東急不動産HD | 渋谷など沿線の再開発に加え、リゾート・再生可能エネルギーなど |
| 野村不動産HD | 分譲マンション「プラウド」を軸に、賃貸・運用・仲介も |
2. マクロ① 金利 — 最大の分かれ目
不動産業界は借入が多い業界です。金利が上がると、次の3つが同時に起きます。
- 利払いが増える:借入コストが上がり、利益を圧迫する。
- 不動産の評価が下がりやすい:金利が上がると、投資家が求める利回りも上がり、同じ賃料でも物件の価値は低く評価される。
- 賃料・価格に転嫁できれば吸収できる:物価と賃金の上昇が、賃料や分譲価格を押し上げる側面もある。
日銀の政策金利と、10年国債利回り(2021年10月〜2026年9月)
10年国債利回りは月平均。政策金利は無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標(2024年3月以降は「0〜0.1%程度」を0.05%として表示)。出典:財務省、日本銀行。政策金利は2024年7月の0.25%から、2026年9月の1.25%まで上昇。10年国債利回りは、同年10月初めに3.09%。
2026年9月18日の決定で、日銀は無担保コールレートの誘導目標を1.25%程度としました(賛成7、反対2)。短期間に、ここまで金利が上がった局面は、不動産株にとっては逆風として意識されやすい時期です。
3. マクロ② 人口と世帯数 — 長い時間軸の追い風と逆風
住宅の需要を決めるのは、人口ではなく世帯数です。日本の世帯数は、一人暮らしの増加(世帯の小規模化)に支えられて、2030年まで増えます。その後は減少に転じます。
世帯数と人口は、これからどう動くか(国立社会保障・人口問題研究所の推計)
上:一般世帯数(2024年推計)、下:総人口(令和5年推計・出生中位)。単位は万世帯・万人。世帯数は2030年にピークを迎え、その後は減少。総人口は一足先に減少が続く。単独世帯の割合は、2020年の38.0%から2050年の44.3%へ。
- 2030年までは、世帯数がまだ増える。単身世帯の増加で、小さな住戸や都心の住宅需要は底堅い。
- その先は、全体のパイが縮む。世帯数は2050年に5,261万と、2020年より約310万世帯減る。総人口は、2070年には8,700万人まで減る推計。
- 需要は「場所」で分かれる。全体が縮むなかで、都心や再開発エリアに需要が集まるかが、会社ごとの差になる。
4. マクロ③ 都心の価格 — 高いまま、売れるのか
報道によれば、不動産経済研究所の調査で、2026年上半期の首都圏の新築分譲マンションの平均価格は1億135万円と、上半期として初めて1億円を超えました。東京23区は1億4,249万円(前年同期比+9.1%)。建築費や人手不足、資材価格の上昇が背景です。価格が上がれば、会社の売上・利益には追い風ですが、買い手がついてくるかが、次の論点です。
5. 大手5社を、決算で比べる
5社はいずれも日本基準の連結決算で、2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)の決算短信を使います。
| 営業収益 | 営業利益 | 営業利益率 | 自己資本比率 | ROE | 来期予想 営業利益 | 予想PER |
|---|
| 三井不動産 | 27,097億 | 3,978億 | 14.7% | 32.4% | 8.7% | 4,100億(+3.1%) | 13.7倍 |
| 三菱地所 | 17,461億 | 3,297億 | 18.9% | 31.4% | 8.5% | 3,700億(+12.2%) | 17.7倍 |
| 住友不動産 | 10,578億 | 2,992億 | 28.3% | 34.4% | 9.2% | 3,200億(+7.0%) | 13.0倍 |
| 東急不動産HD | 12,460億 | 1,669億 | 13.4% | 26.3% | — | 1,900億(+13.9%) | 8.5倍 |
| 野村不動産HD | 9,425億 | 1,382億 | 14.7% | 28.5% | 10.7% | 1,400億(+1.3%) | 8.4倍 |
単位:億円(営業収益・営業利益)。予想PERは2026年10月13日の株価終値と、2027年3月期の会社予想EPSから算出。東急不動産HDのROEは、決算短信に記載がないため省略。出典:各社の決算短信、株価データ。
営業利益率(2026年3月期)— 稼ぎ方の違い
営業利益率=営業利益÷営業収益(売上高)。出典:各社の決算短信(2026年3月期)。
稼ぎ方の違いが、利益率に出ています。住友不動産の28.3%は、賃貸の比重の高さを映したもので、突出しています。三井不動産と野村不動産HDは14.7%で並び、東急不動産HDが13.4%です。
営業利益の伸び — 今期の実績と、来期の会社予想
前期比の営業利益の増減率。出典:各社の決算短信。全社が増益。来期予想で2桁成長なのは、三菱地所(+12.2%)と東急(+13.9%)。野村は+1.3%と、ほぼ横ばい。
営業利益の規模(億円)
単位:億円。出典:各社の決算短信。
伸びの質を見る。今期は東急(+18.6%)と野村(+16.2%)が大きく伸びましたが、来期の会社予想では、野村が+1.3%にとどまります。三菱地所(+12.2%)は、来期の伸びが今期の約2倍に加速する予想です。
自己資本比率(2026年3月末)— 財務の体力
自己資本比率が低いほど、負債(借入)の比率が高く、金利上昇の影響を受けやすい。出典:各社の決算短信。
財務の体力。自己資本比率は、住友不動産(34.4%)が最も高く、東急不動産HD(26.3%)が最も低い。比率が低い会社ほど、金利上昇の影響を受けやすい構造です。
この1年の株価(2025年10月14日=100)
日次終値を2025年10月14日=100として指数化(株式分割調整済み)。出典:株価データ。5社は、1年で+6%〜△10%。日経平均は+44.7%と、大きく差がついている。5社とも2026年2〜3月に高値をつけ、そこから現在まで△24.6%〜△41.6%下落(日次終値ベース)。
予想PER — 株価は、会社予想の利益の何倍か
予想PER=2026年10月13日の株価終値÷2027年3月期の会社予想EPS(決算短信)。会社予想EPSは自社株買いの影響を含む。出典:株価データ、各社の決算短信。
決算は5社とも増益なのに、株価は1年で横ばいか下落です。予想PERは、東急・野村で8倍台、三井・住友で13倍台、三菱地所で17倍台と、会社ごとに期待の違いが出ています。金利上昇への警戒と、日経平均が大きく上昇した局面との対比が、数字に現れています。株価が割安かどうかの判断は、この記事ではしません。
6. 長期で見るべきこと(マイルストーン)
金利、人口、価格という大きな流れのなかで、「何が起きれば、長期の稼ぐ力が保たれるのか」を6つに整理しました。
| 確認すること | なぜ重要か | 見る指標 | 外れた場合 |
|---|
| ① 金利上昇と、賃料・価格の転嫁 | 借入が多い業界で、金利が上がると利払いが増える。賃料や分譲価格に転嫁できれば吸収できる | 営業利益の伸び、営業利益率、受取賃料の動き、日銀の会合 | 賃料・価格が追いつかず、利益が減る。評価(不動産の価値)も下がりやすい |
| ② 都心オフィス・商業施設の稼働 | 賃貸は、利益の安定した柱。空室が増えると、全社の利益が揺らぐ | 空室率、賃料の改定、各社の賃貸収益 | 新規供給の増加やテナント需要の減少で、賃料が下がる |
| ③ 分譲マンションの価格と販売 | 建築費の高騰で価格が上がり続けている。高すぎると、買える人が減る | 契約率、販売戸数、在庫(売れ残り)、粗利率 | 価格が需要から離れ、販売が減る。利益の振れが大きくなる |
| ④ 世帯数のピーク(2030年)に向けた需要の質 | 世帯数は2030年をピークに減少。都心・単身向けなど、需要が残る場所に偏るかが分かれ目 | 都心の人口・世帯、物件の立地構成 | 郊外・地方の物件で、需要が先に細る |
| ⑤ 海外・ホテル・新規領域の収益化 | 国内の人口減を、海外や新分野で補う動き | 海外・新規事業の利益、投資額に見合う成果 | 投資が先行し、収益が出ない。為替の影響も受ける |
| ⑥ 財務の体力と、株主還元 | 自己資本比率は26〜34%台。金利上昇に耐えつつ、配当・自社株買いを続けられるか | 自己資本比率、ROE、自社株買いの進捗 | 財務の余裕が減り、還元を維持しにくくなる |
出典:各社の決算短信、日本銀行、国立社会保障・人口問題研究所。表は筆者が整理。
7. 気をつけたいこと
- 金利の急上昇:想定を超えて長期金利が上がると、不動産の評価が一斉に下がる可能性がある。
- 地価・賃料の下落:景気後退や供給増で、都心でも下がる局面はありうる。
- 建築費の高騰:分譲の利益率を押し下げ、価格転嫁が難しいと、利益を圧迫する。
- 人口・世帯数の減少:2030年以降、国内の需要は縮む方向。海外や新分野での補完が必要。
- 災害・規制:地震や気候変動、税制・規制の変更の影響を受ける。
8. 長期で積み立てる人にとって
個別銘柄の売買の判断は、ここでは示しません。ひとつの見方として、不動産は金利に敏感なセクターで、日本株や全世界株の指数にも、一定の比率で含まれています。指数のファンドで積み立てている人は、すでに間接的に持っているはずです。そのうえで個別に加えるなら、「金利が上がる局面で、どのくらい値動きが大きくなるか」を理解したうえで、資産全体の一部にとどめる。そのくらいの距離感が、長期投資とは相性が良いと考えます。
9. 次に確認する時期
- 年内の日銀金融政策決定会合:追加の利上げがあるか、長期金利がどこまで動くか。
- 各社の2027年3月期 第2四半期決算(11月ごろ):賃貸・分譲の利益と、通期予想の修正。
- 毎月の首都圏マンション市場動向(不動産経済研究所):平均価格と契約率。
- 2030年:世帯数のピーク。それまでに、会社が都心・海外・新分野で稼ぐ力を高められるか。
気になる銘柄を、並べて比べる
現在価格や配当利回りなどの指標は表で、価格の推移は起点を100とした指数チャートで重ねて比較できます。
出典
更新履歴
- 2026年10月13日 初版(2026年3月期決算に基づく)